子どもの概念と「ズレ」

- 作者:正裕, 奈須
- 発売日: 2020/02/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
この本のなかに、「概念の境目をくっきりと描く」という話が出てくる。
たとえば、「鳥」という概念(カテゴリー)を獲得していくには、「典型事例」(ex.ハト、ツバメ、カナリア)、「非典型事例」(ex.ペンギン、ヤンバルクイナ)、「まぎらわしい事例」(ex.コウモリ、飛行機)の三種類の事例が必要である。
典型事例から形成される「鳥は空を飛ぶもの」という概念は、多くの鳥の重要な特徴を表してはいるが、正確ではない。それを修正・更新するためには、非典型事例(この場合は鳥ではあるが空を飛ばない)やまぎらわしい事例(この場合は空を飛ぶけれど鳥ではない)と出会うことが必要となる。これら三種類の事例の関係を整理していくことで、鳥というカテゴリーの境目がくっきりと浮かび上がり、「この境目を的確に表現する特徴なりそれを表す言葉を探す作業」*1、すなわち概念の修正・更新が行われる。
このことを踏まえると、教師が授業を組み立てていく上では、以下の2点が必要となる。
1)子どもたちがどのような概念を形成しているか:どのような事例と出会い、どのような共通する特徴を抽出しているか
2)どのような非典型事例やまぎらわしい事例を、どのような順序や方法で提示していくか
これを踏まえると、どのような発問が生徒に驚きをもたらすかが分析できるように思う。
私の授業の中で生徒からの反響が大きいのは、やはり憲法尊重擁護義務の「4択クイズ」である。
以前の記事から抜粋。
具体的には次のようなクイズ形式で生徒に聞く*1。
こう聞くと、だいたい3分の2は「4 国民」を選ぶ。
しかし、憲法第99条(憲法尊重擁護義務)の条文にある通り、憲法を守る義務があるのは1〜3であって国民ではない。
この時点で生徒は「えっ?」と驚く。その上で立憲主義の説明をする。井上ひさしの「憲法は国民から政府への命令書」という言葉で「翻訳」すれば、「そうだったんだ!」と生徒も納得する。
子どもたちは、憲法を「ルール・きまり」という概念のもとに括っているように思われる。憲法は私たちが守らなければならないもの(の一つ)と考えているということである。「義務を果たさない奴に権利なんてないんだ!」などという「お説教」をかまされていればなおさらだろう。
しかし、憲法と法律は明らかに違う。国民と政府(国家権力)との間の「矢印の向き」(守らなければならない主体)がちがう。
憲法というものは、あくまで国家権力が守るべきものであり、基本的人権の侵害をさせないためのものだーこれは、生徒が持っている「ルール・きまり」という概念とは明らかに異質である。
だからこそ、「えぇ、そうだったの?!」という驚きが生まれる。そこをうまく次の学習に繋げていくと、子どもたちの中に「憲法」という新たな概念が形成されていくのかもしれない。
社会科教育では「ズレ」という議論があったはずだ。改めて読み返してみると、いろいろな発見がありそうだ。
tanoshi-kyoushi.hatenablog.jp
*1:p.145